「誰だってできることだと思うよ。やり方を忘れてるだけでさ」

「感謝して、観察して、集中して、思い出せば、感じられるんでしょう? 自然の偉大さを」

舞は、完璧に覚えたらしい。

俺はこれまでに何度もいってきたせりふを、そらで暗礁してみせた。

アイスコーヒーの氷がグラスの中で、それに応えるようにカランと鳴る。

氷までコーヒーなんだから、舞の親父さんのこだわりは、母さんをはるかに凌ぐ。

「そう。そう。よくできました」

小奇麗にしている居間と続きの台所を眺めながら、俺は言う。

居間まではみだしている、でかい両開きの冷蔵庫が、飾り気のない室内で浮きまくっていて、思わずじっとみつめてしまう。

「大きいでしょう? 二人っきりなのにさ」

舞はもう俺がまともに答えてくれないと踏んだのか、あっさり話題をかえた。

そう。俺、舞の質問には必ず答えるけれど、掘り下げられると逃げる傾向がある。

舞はとっくに学習して、対策を練っているわけだ。

さすがに鋭い。

じいちゃんがいたら、絶対、二十丸でお気に入りになったな。

「パパが料理大好き人間なの。だから、時間のあるときにごっそり作ってがんがん冷凍しちゃうわけ。あれ、上の大きい部分が冷凍庫なんだよ」

「すごい、親父さんだね。うちのなんて味噌汁も作れないよ」

舞がびっくりした顔で俺をみる。

「淳くんとこってお母さんいないんだよね?」

「うん」

「じゃあ」

「俺が飯担当」