「ママはね、神経症だったのね。簡単にいうと、鬱」

舞が、母親のことを話しはじめたのは、医大からの帰り道だった。

親父さんは、やはり、他の二人の検査が終わってから一緒に役場のほうに戻りたいということだった。

来るときは急いでいたからタクシーを拾ったけれど、帰りはもちろんバスだ。

俺は、数週間ぶりの、‘ここらへん’からの遠出だったにもかかわらず、自分がまったく問題ないことにすこしよろこんでいた。

数週間前に、クラスメートの安部と、絵の具を買いに駅近くの画材屋まで遠出したときは、たった1時間程度なのに、絵の具を選んでいるときに眩暈をおこして、楽しみにしていた、マクドナルドのシェイクもあきらめて、さっさと帰ってきたのだったから。

外の風っていうのは、こんなにも軽くてかわいているんだなっと、余裕で感じながら、バス停の時刻表をチェックしているときに、舞は口を開いたんだ。

「あたしがお腹にできてから、それまでは軽かったのが急に重くなったんだって。つわりとかで大変だったせいみたいだけど」

バス、10分くらいでくるわ、というのをぐっと飲みこんで、俺は、うん、とうなずく。

「出産してからしばらくは大丈夫だったみたいなんだけど、あたしが3つくらいになった頃からまたひどくなってきて、もう家にいられなくなっちゃったんだよね」

また、瞼に映像。

小さい、小さい、舞が、女の人の膝の上で暴れている。

なにか食べたくないものを無理やり口にいれたれたみたいだ。

泣き叫ぶ舞。それを押さえ込む女の顔は影になってみえない。

でも、女も泣いている。

食べなさい。大きくなるんだから食べなさい。

いったい何を食べさせているんだろう?

俺は気を合わせる。