「白川さん。白川雄一さん」

ふいに、看護師さんの声が響き渡った。

舞の親父さんが、はい、とはじかれたように受付のほうへいく。

舞はついていかない。

離れていく自分の父親の後ろすがたを、ずいぶんと、きっとした目でにらんでいる。

「すっごいファザコンって思ってるでしょう?」

売店でジュースでも買って来ようかと、腰をうかせた俺をふりかえっていう。

「いっしょにお風呂なんてはいってないからね」

「そこまでは思わないよ」

舞は、ははは、と笑う。

力の抜けた笑い。

さっきの映像の、枯れる寸前の花みたいな子供の舞に重なった。

「なに飲む? コーヒー?」

俺は話題に触れないように、売店のほうをむいたままできいた。

舞の親父さんが受付の人に、どこかに行くよう、手で指示されているのが視界の端に入り込む。

誰かの様子を見に行くようだ。

たぶん、一緒に乗っていた運転手か内地からの客か。

舞が有無をいわわず、まずさわりはじめたので、そこらへんはまったく聞いていない。

ほかの二人はどうなったんだろう?

「カフェ・オ・レ、あるかな?」

やはり、親父さんのほうをみながら、舞が答えた。

OK.俺は片手をあげて売店に走った。