[昔からこうやって、触って確認するんですよ」

親父さんは、俺の手前、照れ隠なんだろう、ぺらぺらとしゃべる。

「母親が病弱で、舞が物心つかない頃から入院していて、結局、こいつが小学校三年のときに死んでしまったもので、心配なんでしょうな。父親もそうなるんじゃないかって。いや、お恥ずかしい」

舞は親父さんがなにをいっても、無視して自分の作業に集中しているようだ。

かがみこんで脚を撫でたり、膝をたたいたりしていたかと思うと、中腰になって腰まわりをつねるみたいにねじっている。

周りの人たちの何人かがきがついて面白そうに眺めているのなんて、全然気にしていない。

「こらこら。舞。ボーイフレンドの前でいい加減にしたほうがいいんじゃないか? ほんとうになんでもないんだから」

「そんなんじゃないもん」

やっと舞は顔をあげた。

ふくれっつらだ。

でも、そのままで親父さん腕、肩、首、頭、顔と確認していく。
最後にちょっとはだけたシャツの胸に小さな褐色の両手をすべりこませると、舞は小さい子供みたいな顔で、動いてる、大丈夫、とようやく安心したように笑った。

俺の瞼の上のほうで、映像がうごく。

赤いリボンのおさげの女の子が、アパートの玄関先でスーツ姿の父親の体を、小さな紅葉そっくりの両手で触っている。

何度も何度も繰り返し触って、父親が確かに生きていることを確かめている。

舞だ。

いまよりも痩せていて、いまよりも暗い瞳の、舞。

俺は思わず、強く瞼を閉じた。

消えた。