医大はいつも混んでいる。

前にきたときも、その前にきたときも混んでいた。

この市から北、そして東の一帯の医療を担っているのだから、まあ、混んでいるのはあたりまえなのだけれど。

ここにくると、いつも、世界にはなんて病む人が多いのだろう、と悲しくなり、自分が健康でいられるこに感謝したくなる。

母さんがいっていたように。

そうだ。ここに前にきたのは母さんがいなくなるちょっと前、オプニカで片腕をなくした女子が入院していたのを見舞いにきたんだった。

あの子は母さんの親友の子供だったから。

「パパ」

ふいに舞が小走りになる。

俺は、舞の向かう方向に目をやる。

総合待合ホールの隅のソファに座っていた、中年の男が立ち上がった。

舞の親父さんは、舞と同じ顔をしていた。

濃くて熱い。

これは役場でも注目の的だろう、と思いながら、こんにちわ、と頭をさげた。

「淳くんだね。いつも舞からきいてます。お世話になってるようでありがとう」

警官の言葉通り、舞の親父さんは元気そうだった。

黒々とした髪をかきあげて、それにしてもよくわかったな、とさわやかに笑っている。

きっと若い頃はスポーツマンでもてたんだろうな。

舞はそんな親父さんの体のあちこちをさわっている。

どこも悪くないって、と俺の手前、苦笑いする親父さんを完璧に無視してさわりまくっている。