「助手席の女の人がね、すこし打撲って感じだっただけでね。運転してた人もあなたのお父さんも見かけは問題なかったですよ」

しかし、よくわかったねえ、白川さんが乗ってるって。

警官は誰にいうでもなく、感心したようにつぶやいた。

舞は俺に、医大、医大、とくりかえす。

俺は、路肩に座りこんでいる大型トラックの運転手をみていた。

警官に質問されているのに、ぼんやりと宙をながめている。

「トラックの運転手がちょっと居眠り入ってたみたいでね。途中で狭くなった車線にきがつかなくてね。対向車と接触したんだな」

「酒ですか?」

とっさに聞くと、いや、アルコール反応はでてないみたいなんだわ、と親切な警官は教えてくれた。

「もういい。一人でいく」

舞の怒った声に、はっと我に返った。

なんだかいま、別なものを感じていたから。

宙をぼんやりとみつめている運転手のこめかみのあたりに感じていたから。

「行く、行く。いっしょに行くよ。タクシーつかまえよう」

警官に礼をいって俺は舞の手を握ったまま外の橋を、隣の町へと渡っていった。

石、今日もってきてないな、とかすかに思ったけれど、1、2時間の、たかが市の高台への遠出が深刻な問題になるわけなんてない、と思い直した。

舞は安心したような顔をしていても、手はまだすこし震えていた。

でも、とっさに、携帯で連絡する、といわなかったのは、あっぱれだ。

電波が薄いことに馴染んでくれたんだな、と思うと嬉しかった。