「メコンノイ。おまえの血を持つものが災いの中にあるぞ」

一分近く、舞を凝視すると、正婆は押しつぶした声でそういった。

「パパ?」

舞はまず正婆にいい、次に俺を振り返る。

「パパ?」

「行ってみよう」

とっさに舞の、震える手をとって走りだした俺の背中を、正婆の渋い声がおっかけてきた。

「淳ぼう。見つけたな。銀のしずくふるふるを、金のしずくふるふるを」



騒ぎはやはり交通事故だった。

大型トラックと乗用車の接触だ。

そして、正婆がいったとおり、乗用車の後ろの席に舞の親父さんがのっていた。

車は市役所ので、運転していたのは市の職員、助手席には内地からの来客がのっていた。

そう、‘ここらへん’では、いまだに本州を内地と呼ぶ。

つまり、俺たちは外地の人間。

「医科大の付属病院のほうに、一応検査ということでついさっきいかれましたね」

舞が娘だというと、若い警官は、ああ、とうなずいて愛想良く教えてくれた。

俺たちが着いたときには、すでにトラックと乗用車は引き離されていて、道路端によせられた乗用車のつぶれたボンネットだけが事故を物語っていた。

あとは割れたテールランプのかけらくらい。

もっと大きな事故だと思っていた俺たちには、けっこう拍子抜けだった。