内の橋の袂のところに、正婆がいた。

口の回りと腕のところに、昔ながらの刺青をしている、小柄な正婆。

俺と舞を見て、にったりと笑った。

口の刺青がくわっとひろがって、嘴の鋭い鳥にみたいだ。

「淳坊。ありゃ、なんだね?」

内の橋越しにのぞむ、外の端の、ちょっと反って太鼓になってることろに、車が何台かとまって
いるのが見える。

どれも大きな車のようだ。

こんなことは、年末に、‘ここらへん’で唯一のスーパー・岩井がまとめて商品を取り寄せるときくらいにしかおこらない。

「車が沢山並んでるよ。トラックばかりみたいだ」

俺は背伸びをし、目を細めて答える。

「怒鳴っとるな」

正婆は、首にまいている緑色のスカーフで鼻をちんとかんでいう。

舞がおかしいのか、横え声を殺して笑っている。

いまだに刺青をいれているのは正婆くらいだから、しょうがないか、と俺は思う。

正婆は、たぶん、最後のトゥっクだ。

それこそ、舞のいう、霊を見ることのできる、巫女だ。

「なんか、事故みたいだ。パトカーが近づいてる」

‘ここらへん’に交番はない。消防署も。

そういう関係はとなりの神楽から、橋を二つ渡ってやってくる。