戦場に行って帰ってこない恋人を、

待って、待って、待って、待って、

とうとう小さな白い花になってしまった

女の子の物語。

「あのさ、聞いてくれるのは全然いいから」

遠くからトラックのクラクションが聞こえてくるのを、

背伸びして確かめるふりをしながら、俺は言う。

「‘ここらへん’のこと、なんでも聞いてくれていいから。俺が答えられることならなんでもちゃんと答えるからさ」

「わかってるよう。転校してきた日にもそういってくれたでしょう」

舞はくすくす笑っている。

トラックのクラクションが大きくなった。たぶん、外の橋の袂辺りだ。

人の怒鳴りあう声まで響いてくる。

川の流れがわずかに乱れた。

「邪、っていうのはさ」

舞は、自分の鞄を胸にかかえて、喧騒の聞こえてくる方向にまっすぐにむいた。

「ああいうのをいうんだよね」

俺は、舞の首筋にある、5つの黒子に向かって答えた。

「たぶんね。でも、誰にだってある。要はコントロールさ」

「あったまいい」

俺たちは、ヨーイドンで走りだした。

「邪っていうのはさ」