邪について、俺はずっと考えてきた。

ときには悲観的に。

ときには楽観的に。

‘ここらへん’の連中なら誰だって、二つの面から、邪をみようとする。

それは人間には必ずあるものだから。

それはとらえ方でよくもわるくもなるのだから。

「欲だ。淳坊」

俺が、邪のことを聞くと、じいちゃんは、いつもそう答えて、かっかと笑った。

「妬み、ひがみ、憎しみの負の力と」

じいちゃんは、削っていたイナウの、しそんじた先っぽを俺の前に並べてみせた。

「それをばねして伸びようとする正の力」

何の役にも立ちそうにない、しょぼい削りくずにマッチで火をつけた。

とたん勢いよく燃え上がった。

オレンジ色の綺麗な炎。

冬の寒さにかじかんでいた体がふわっと温かくなった。

「イレス・カムイ。イレス・カムイ」

まだガキの俺は、自分を気持ちよくしてくれた火の神に手をあわせた。

じいちゃんが、その小さな手をぐっと掴んだ。

炎の上に無理やりもっていった。

「熱っ!」

泣き出した俺の、わずかに赤くほてった手を、じいちゃんは、ごめんの、と頬にすって慰めながら教えてくれた。

「これが、邪だ。淳坊」

かれこれ八年くらい前の話だ。