「なんで?」

転校初日、舞は、俺にむかって何度こうきいたのだったろう。

たぶん、50回はくだらない。

「なんで、こんなに病院とか整骨院とかマッサージ院が多いの?」

「なんで、車がこんなに少ないの?」

「なんでバスが通ってないの?」

なんで? なんで? なんで?

俺は一つ一つに丁寧の答えた。

[病院が多いのは三十年前に市の高台に国立の医科大学ができて、このあたりからも勉強して入るのがいて、それが戻ってきて開院したから。整骨院やマッサージ院はけっこう昔からある」

「車が少ないのは、この一帯は二つの川に完全に囲まれている、一種の中洲なんで地盤の心配から重いものは避けようって風潮のせい。だから建物も学校以外は平屋だし。あと、有名な植物学者がこの一帯だけに生息する植物への排気ガス汚染を訴えてからそうなったともいわれてる」

みたいな感じできちんと答えた。

いちおう、生徒会長だし、担任の安田から肝いりで頼まれたし。

他の大人連中も期待してるみたいだし。

それに、なんといっても、舞は、悪くなかったから。




舞がやってきた朝、俺は珍しく遅刻した。

前の晩、親父につきあって遅くまで川の石を拾っていたからだ。

雨の中の作業だったのですっかり疲れてぐっすり眠りすぎてしまった。

「おう、淳。おまえ案内係な」

ダッシュで教室に飛び込んだら、すで教壇にたっていた、30歳にしてザビエル禿げの担任、安田にあっさりいわれた。

「OKっす!」

勢いよく答えたのは、遅刻の罪悪感からきた、たんなる条件反射だ。

安田の横にたっている見慣れない女子に気がついたのは、答えた数秒後だった。

‘たくましい命’

じいちゃんの言葉を瞬間、思い出していた。