「波長があったんだろうな。佐藤くんと」

親父が小さく笑いながら、血のついた脱脂綿を銀色のゴミ箱に捨てている。

さっきまで、佐藤も小森も桜井も、そして田口と山中も、この八畳ほどの診療室にいた。

薬棚横の机の上に、六つのカップが置いてある。

親父がみんなにつくってくれたココアの残骸だ。

つい二十分くらい前、俺たちは診療室のドアを叩きまくっていた。

佐藤の耳からの血はもうとっくに止まってはいたけれど、俺以外のみんなはずぶ濡れでがたがた震えているし、とうの佐藤は真っ青でいまにも倒れてしまいそうだったので、とりあえず、一番近い医療系の家である俺のところに走ったんだ。

もう休んでいたらしい親父がようやく鍵をあけてくれたとき、それまで佐藤の片方の肩を支えていた舞は、じゃあ、あたしはこれで、とすっと抜けて帰っていった。

送ろうかと思ったけれど、状況的にそうもいかなくて、うん、とうなずけただけだったけど。

「たいしたことじゃないさ」

佐藤の耳の傷を見て、まず一番に親父はそういった。

丁寧に消毒され、手のひらくらいの絆創膏をぺたりと貼りつけられて、はい終了、といわれたときには、あの、半分近くも切り取られていたように見えた耳の傷は、もう小指のつめ先くらいのものになったことが判明していた。

「切られたといより、無意識にツーパの淵を擦りつけていたのかもしれません」

俺が居間から大量に持ち出したタオルで体を拭き、親父のつくったココアを一口飲んですっかり落ち着いた佐藤は、ぼそりとそんなことまでいった。

小森がうなずき、桜井は黙って佐藤の顔をながめ、田口はちょっと顔をゆがめて、山中は、まじかよ、とつぶやいた。

俺は佐藤のいがぐり頭をながめて、らしいな、と思っただけだ。

「とにかくたいしたことじゃない。みんなご苦労さんだったな」

やがて親父がいい、それが合図になったように、みんなはココアの礼をいって帰っていった。

ほんとうに、つい二分くらい前のことだ。