そういう話は何度が聞いたことがあった。

だから、15歳の男女が選ばれると説明されたことがあった。

大人でも子供でもない微妙な年齢の人間の血。

水の塊たちは、たぶん、佐藤の血の持つエネルギーで元気になったのだ。

見えない糸にひっぱられてでもいるように、あっという間に山の中、白樺と伊達かんばに囲まれたチャシにのぼっていく水の塊たちを、一行の5人も、俺と舞も、ほとんど全力失踪で追いかけた。

それでも、やっと追いつけたときには、水の塊たちは、平たい石が三枚組みあわされているチャシの中に、もう入っていこうとするところだった。

「ドワッカ・モーシ・モシ。ドワッカ・モーシ・モシ」

佐藤がよろよろしながら、それでも力をふりしぼって声をあげる。

水の塊たちはまるで待ち構えていたかのように、高く深くジャンプをきめて、石の間にするっと滑り込んでいく。

小森や桜井、田口、山中もそろって声を出す。イナウを振る。

水の塊たちはそれを節として、するっ、するっ、と次々に、石と土の間に消えていく。

この世ではなく、たぶん、あの世でもない、とりあえずの待合空間みたいなところに、入っていくのだ。

やがて、すべての水の塊たちが消えてしまったことを確認すると、佐藤はさっき自分の耳を切ったツーパをかかげ、三枚の石の上にぱっかりと被せて両手に全体重をかけてしっかりと押さえ込んだ。

「ドワッカ・モーシ・モシ。ドワッカ・モーシ・モシ」

唱えながら、じっと様子をうかがっている。

なにも聞こえてはこない。

ツーパを蹴るような音は。

しばらくして、佐藤は静かにツーパから手を離した。

みんなが静かに近づき、手にしたイナウをツーパの上におく。

そして、一歩下がって深い礼をしてから、ゆっくりと俺を振り返った。

俺はうなづく。

一同から、安堵の大きなため息が漏れた。