やがて、水の塊たちは堤防をあがりきった。

 今回は、100くらいだ。

 チャシの域に入ったとたん、どれもが、いままで元気に跳ねていたのが嘘のように、べったりとアメーバーのように地面にふせってしまう。

 それらを踏まないようにきをつけながら、小森と桜井、田口に山中はゆっくりと回りはじめる。

 佐藤が顔をあげたらしい。

 唱える声がやみ、すると、渦巻いていた小さな竜巻は雲に吸い込まれそうになる。

 瞬間、佐藤が石に固定してあったツーパをはがし、頭上に高くかかげた。

 いいタイミングだった。

 消えかけた雲の、ほんとうに先っぽが、うまい具合にツーパの中に入った。

 とたん、大粒の雨が勢いよく降り出す。

 アメーバーになっていた水の塊たちが、むっくりと体をもちあげる。

 今度は流れていく。

 降り注ぐ雨にのり、山のチャシへと、流れ、進んでいくのだ。

 円陣が静かにほどけた。

 すでにずぶ濡れ姿の佐藤が、イナウを振り振り、いまや、列の先頭をきって流れていく水の塊たちを小走りで追いかける。

 追いかけ、追いつき、添って進む。

 そして、今度はイナウを上下左右に激しく振り回し、さっきとは別の言葉を唱え始める。

「シッコロ・カムイ。シッコロ・カムイ」

 小森も桜井も、田口、山名も、佐藤にならって、端からは、間違いなく、狂ってる人たちの踊り、といわれるだろう動作をつづけていく。

 これは邪払いだ。

 水の塊は川からあがって山に向かうときに、最も、邪に寄ってこられやすい。

 蚊が人間に寄ってくるように、寄ってくる。

 だから払う。

 蚊を払うみたいに、しっしって具合に。