阿呆にもほどがある。あんなに頑張って作ったのに。

親父がよくいう、おまえは肝心なところが面白いくらいすこんと抜ける、の意味がほんとうによくわかった。

阿呆、阿呆、と自分をののしっている間に、佐藤たちの列は俺たちの前を通り過ぎて、舞がゴミ拾いをした、川のチャシの正面に到着した。

夕刻からぐっと雲の多くなった暗い空に、5人の持つイナウの白い房が、なにか別の生き物のように光り輝いてみえる。

オプニカのときはいつもこうだけれど。

佐藤は全員が静止したのをみはからうと、イナウの間に器用にはさんでもっていたツーパを、三枚の石の上に慎重に置いた。

後ろにいた小森と桜井がさっと出てきてチャシに屈み込み、ツーパと石の境に土をつめて固定する。

二人の作業の間、佐藤、田口、山中は、それぞれのイナウを、まさに応援するチアリーダーがぽんぽんをふるように振っている。

やがて、固定が終わって二つが列に戻ると、今度は佐藤が、半分くらいまで注がれているお神酒を飲むかとおもほど、ツーパに顔をちかづける。

そして唱える。

「ドワッカ・モーシ・モシ。ドワッカ・モーシ・モシ」

舞がぐっと俺の腕をつかんだ。

雲が降りてきたからだ。

あたりは一気に暗くなる。

「ドワッカ・モーシ・モシ。ドワッカ・モーシ・モシ」

佐藤の声が高く低く響くのにあわせて、頭上の雲からどろん、と端っこが垂れてくる。

同時にチャシのツーパから水滴のようなものがあがっていく。

小ぶりの竜巻が地上と空を結んでいくようだ。

その中心にいる佐藤は、もうよく見えない。

ただ佐藤の顔のすぐしたにあるはずのツーパから、お神酒が渦になってあがっていくのがほんのすこしわかるだけだ。

「ドワッカ・モーシ・モシ。ドワッカ・モーシ・モシ」

佐藤だけが唱える声が、空気と水の絡まる音の中でどんどん大きくなっていく。

ツーパの力だ。

列のほかの連中はイナウで応援しながら、ただ黙ってみつめているだけだ。

そろそろ来る。

あがって来る。

俺は舞の手をそっと握った。