‘ここらへん’で生まれて育った人間なら、誰でもガキの頃に、歌詞はなくても、メロディだけは嫌というほど耳にしてきている。

子守歌として誰もがハミングするからだ。

でも、実際に、この歌をハミングすると、赤ん坊はかなりの高い確率で大人しくなるんだ。

俺の15年の人生の中での、数少ない子守経験からいえば、100パーセントの確率だった。

たぶん、母親の中にいた頃に聞いていたメロディと似てるんだろう。

「白川さん、来てないんだね」

3コーラス目がおわって間奏にはいったとき、小森が小声できいてきた。

「札幌行ってる。親戚がきてるんだって」

俺も小声でこたえる。

この合唱が終われば、そのまま閉会式に移行するので、俺は挨拶をしなくてはならない。

その後でおやつと飲み物が全生徒にふるまわれて、全員が腹もちをよくしたろこで、山のどこかにすでに作られているはずの、イヨマンテの式場に徒歩で移動するんだ。

イヨマンテは夜遅くまで続くことが多いから、防寒を始めきちんと準備していかなくてはならないことが多い。

「もったいないね。せっかくのイヨマンテなのに。毎年はないのに」

小森は心底残念そうにいった。

その悲し気な顔に嘘が微塵のないことが、俺にはとても嬉しかった。

「それでは閉会式をはじめます」

ピアノの音がやんで、書記の木崎の声がマイクから流れる。

「生徒会長の挨拶」

俺は用意していた原稿をもって、全校生徒の円陣の真ん中、ピアノの横にある演壇に登った。