舞はすでにチャシにきていた。

 まだ待ち合わせまで10分もあるのに、一人で堤防の端っこにある、すこし土を盛り上げて、その上に平たい石を三枚、立てて埋め込んである、ちょっと見はキャンプの炊事場みたいなチャシのすぐよこで、制服姿で体育すわりをしていた。

チャシとはもともとは砦のことだ。

いまはもう戦いなどないから、約束事のくるところ、くらいの意味しかないけれど。


舞の傍らにおいてあるスーパーの袋から、拾い集めたらしい、空き缶や割り箸、スナックの袋なんかのゴミが透けてみえている。

 チャシをほんとうにキャンプの炊事場だと勘違いする、市のほかの地域の連中がときたまいるのだ。

 まあ、とくにうるさくいって、変に注目されるのを避けるために、俺たちはなにもいわないけれど。ただ、淡々とゴミがあれば、拾うだけなんだけれど。

「早いじゃん」

 俺を見ると、舞はぴょんと飛び上がるように立ち上がった。

「そっちこそ、もう掃除おわってるし」

 すこし舞の言い方を真似て、語尾をあげてみる。舞は溶けるように笑う。

 滅茶苦茶緊張している証拠だ。

「なんか、街全部がすっごい静かだよね、いま。みんな知ってるってわけなのかな?」

「そりゃあ、知ってるよ。静かなのはいつものことだと思うけど」

 チャシの傍らから川面をのぞんで俺は答える。

 水はもう、堤防の半分ちかくまであがってきている。

 あとすこしで放出線だ。

 「でも、静かの種類が違うっていうか、なんだか凍りついてる感じ。寒くはないのに」

 鋭い。

 つくづく感心しながらも、俺はその問いには答えず、ついさっきから視界にはいってきていた、橋の袂からの行列を、目で指した。

 佐藤たちがゆっくりと、こちらにむかって進んできている。

 舞は、はっとした顔になって口をつぐんだ。