「うん。親戚の人が東京から観光でくるの。それで会い行くってわけ。たぶん泊りになると思う」

見たかったな、大きな儀式のイヨマンテ。

舞はため息まじりにそういい、俺と木崎を顔を見合わせた。

誰か舞の親父さんにアドヴァイスした人間がいるに違いない。

でも、それは正しいことなのかもしれない。

そして、正しくないことなのかもしれない。

決めるのは、たぶん、イヨマンテの儀式自体なんだろう。

「美味しい! ここのお蕎麦ほんとうに美味しいね。東京のお蕎麦も美味しいけど、こっちのほうが勝ちかもしれない」

舞が鴨南蛮を食べるなり、手放しで蕎麦を賞賛しはじめたので、木崎がひどく感動して、話はそこで終わりになった。

俺はメコンノマコイのことをすこし考えたけれど、舞が帰ってきたときに渡せばいいだけのことなので深くは気にしなかった。

それよりも、舞の親父さんに忠告した人間に感謝していた。

舞をイヨマンテから遠ざけることができるなんて、俺たちは微塵も考えることができなかったからだ。

たぶん、正婆の力で。

そうだ、札幌くらいまで離れえしまえばたぶんなにも起こらないだろう。

俺は、いつのまにか、全身の力が抜けるくらいほっとしていた。

大好物の天婦羅蕎麦を食べながら、眠くて眠くてしょうがなくなるくらい脱力していた。

ガキはやっぱり駄目だな、思考に多角性がなくて。

そんなことを考えながら、こっくりこっくり舟をこいでいた。