なんだかとっても暖かかった。

なにもかもが素敵だった。

ここから始まることに悪いことなんてひとつもないって確信でした。

そして、俺がそう思っている間も、舞は休むことなく笑っていた。



「どうしたの? 手の傷」

冷えたから、蕎麦食べよう、と入った木崎蕎麦屋で舞は、箸を持った俺の手をみて,とがめるようにいった。

「ちょっと工作やってて、名誉の負傷」

「工作? 工芸高校でもいくの?」

「いやいや、ほんとうに名誉の負傷なんだよ、白川さん」

注文の天婦羅蕎麦と鴨南蛮を運んできた木崎が援護してくれた。

「イヨマンテのでほら、いっぱい削らなきゃならないからさ」

「イナウ?」

「そう。よく知ってるよね。白川さんも、もちろん見にくるでしょ、イヨマンテ」
 
木崎はサービスといって、厚焼き玉子をのせた皿を二つの蕎麦の真ん中においてくれた。

俺は厨房の中にいる木崎のお袋さんに、どうも、と頭をさげる。

「うーん。すごく見たいんだけど、たぶん無理かな。パパと札幌行かなくちゃいけなくなったから」

「え? 札幌?」

聞き返す俺の声はひっくりかえっている。