「えっと、その、いろいろと勝手なこととか言ってるし、寒いのに散歩とかにつきあわせてるし」

俺は自分の紺色のピーコートの裾を意味もなく手ではたきながら、言う。

舞は、ほこりなんてついてないよ、とまずいってから、べつに勝手とも、寒いとも思ってないけど、と頬をふくらました。

「思ってないけど、なに?」

「キスとかハグとか、ないよね」

「あ。ごめん」

慌てて近寄ろうとしたら、石につまづいて派手にこけた。

「大丈夫」

走りよってきた舞の、右腕を強くひっぱって、枯れ草の上に倒れこませる。

驚いて固まっている頭を両手でしっかり包んで、口元からゆっくりほどく。

指と唇と鼻の頭で、何度もくすぐりながら。

舞はずっとくすくす笑っていた。

帽子を脱いで、コートを脱いで、薄桃色のワンピースも脱いでいきながら、笑い続けていた。

俺も笑っていた。

ピーコートを下にひいて、パーカーとジーンズを一気に体からはがしながら、ずっと笑い続けていた。

これってさ、ずっと笑いながらするものだったんだね。

ごめん、あたし、初めてじゃなくって、と軽く泣いてから、舞はまた笑顔になってそういった。

俺は初めてだったからよくわかんないけど、と俺がいうと、それはよくわかりました、と、舞が笑う。