「いいや、殺したりはしなかったよ。動物愛護云々がうるさいし。だから、槍で刺すふりだけをで儀式は終わらせて、小熊はどこかの動物園に送られていったよ。小熊っていっても、体長一メートルもある充分大きな熊だったけどね」

舞は、ふうん、といった。

いいながら、足元に咲いている小さな草の花なんかを、ふっとしゃがんで眺めてみたりもする。

もう初雪が降りそうなほど寒いのに、このあたりの山の端には、草の花がまだ咲いていたりする。

誰かが、川からの水蒸気でこのあたりだけいつも暖かいからだ、といっていたけれど、雪がいったん降ってしまえばすべて枯れてしまうので、今日、舞をここに連れてきたかったんだ。

舞とひさしぶりにゆっくりと話をするのには、ここが一番いいと思ったんだ。

「これでいいかな、イヨマンテの説明は」

「うん。ありがとう。よくわかった」

舞は、俺と並んで歩き出すなり、イヨマンテのことを説明してほしい、といった。

だから、できるだけわかり易く説明してみたわけなんだけれど、舞の反応はいまひとつだ。

怒っているのかな? と思う。

勝手にもう一緒に帰れないっていってきて、また、勝手に話があるからデートしようっていう。

この糞寒いのに、外を延々と歩こうなんて提案する。

確かに勝手だ。

「ごめん」

思わず謝った。

すこし前で、猫柳の小さな綿帽子をつまんでいた舞は、え? と驚いた顔でふりかえった。

「なんの、ごめん?」