いま家を飛び出して自転車でダッシュすれば、舞の家になんて三分でつく。

どうしていまじゃ、いけないんだろう。

俺は痛烈に思った。

「わかった。じゃあ、待ってます」

舞の声が、熱した石に振る柔らかい雨のように落ちてきた。

俺は、うん、という。

じゃあ、失礼します、と受話器を置いた。

もう、ほとんど終わりかけている蜜蝋の最後の数分の光の中に、俺の血真っ赤にそまったメコンの顔が輝いてある。

刃が滑らないように、俺は親父の言うとおり米粒をつかったけれど、うまくいかなくて、自分の爪の先で止める方法に変更した。

確かに止まってけど、さすがに西の大都市からとりよせた刃は優秀で、今度は鼻を削り取りかわりに俺の爪をざっくりと削ってくれた。

一生懸命ふいたんだけど、血はもう染み込むのは思いのほか早くて、かなりたくさん、入ってしまった。

これじゃ赤くなるぞ、どんなに焼いても、と親父が笑うのが目に見えるようだ。

でも仕方ない。

とにかく鼻は完成し、俺は舞に電話できたんだ。

今日は良い日にしないと、小森に申し訳ない。

爪にぐるぐると包帯をまきながら俺はそう思った。

思ったとたんに、三つの蜜蝋が、はいここまでです、と一斉に消えた。

闇の中、血だらけのメコンマコイだけが異様に強く光っているように、俺には見えた。

たぶん、気のせいだったと思うのだけれど。