電話できたのは、真夜中すぎだった。

これはかなり失礼な時間だ、とわかってはいたけれど、これを逃すともう絶対電話できないだとうと確信していたから、思いきってかけた。

親父さんがでたらどうしよう。

どきどきしながら、居間と台所の間にある、むかしからの黒電話のダイヤルを回すとき、心の底から、携帯が欲しい、と生まれて初めて思った。

「・・・・はい、白川です」

でも神様はいる。

7回コールの末に受話器をとってくれたのは舞だった。

「三下です。遅くにごめん。話したいことがあって」

一息にそういうと、舞は、くすっと笑って、大丈夫だよ、といった。

大丈夫だよ、の、よ、が、溶けるように優しく耳に響いてきて、俺は瞬間、泣きたくなった。

「なんか、このごろ、イヨマンテとか学祭とかでぜんぜん話せてなかったからさ、もし、よかたら、明後日の午後とかに、散歩しませんか」

「散歩?」

「うん。寒くなってきて初雪も近いだろ。山の端のあたりとか、ぎりぎり残ってる紅葉がけっこういいんだ。もう、行った?」

舞は、また、くすくすと笑った。そして、行かないよ、とすねたみたいにいった。

「じゃあ、行こうよ。明後日、迎えにいくから」

「話って?」

「この約束することが、話なの」

「ふうん」

なんで明後日なんだろう、と俺はそのとき思った。