俺は、蜜蝋をつけた。

手元を照らすのと、机を照らすのと、居間を照らすのに、三本に火をともす。

オレンジ色の光の中に浮かび上がる、メコノマコイは、まだ誕生していないのに、なにか違う次元からやってきた生き物みたいにみえる。

じっと見つめていると、ゆるくカーブした先端がぴくっと動いたり、鼻を削ってしまったメコンがくすっと笑ったりしそうだ。

俺は慎重に削り台に、その生き物を固定して、まずなだめるように静かに手でなでてやる。

自分でも惚れ惚れするくらいうまく彫れた3羽のふくろうは、とくに念入りにかわいがる。

まだまだ未完成の雪の結晶の部分は、サンドペーパーがけが命、ときめているので、さっと触って終わらせる。

顔を削ってしまったメコンのところは、ごめん、今度はうまくやるから、と気持ちをこめて軽くたたく。

彫りにかけられる時間は、もう、今日と明日くらいだ。

明後日には怒涛のサンドペーパーがけと焼き、そして仕上げの石入れをしなくてはならない。

そうしないと、イヨマンテの夜には間に合わない。

俺は、気持ちを落ち着けて削り落としたメコンの鼻に刃をあてる。

鼻がもし成功したら、すぐに舞に電話しようと決めていた。

イヨマンテの前にちゃんと会う約束をとりつけようと,賭けていた。

小森のくれた、悲鳴みたいな、さよなら、が蜜蝋の細い煙りのむこうで、応援歌みたいにくりかえし甦ってきてくれていた。