母ちゃんがいなくなる前のオプニカ。

 オプニカが終わって、秋が深くなって、初雪がふり、その雪が根雪になるまえに、母ちゃんはどこかにいってしまった。

 イヨマンテの後。

「清められたのなら、しょうがないなあ」

 じいちゃんが、うなだれる親父をそう慰めているのを聞いた覚えがある。

 埴輪みたいな顔だった母ちゃん。

 丸い顔にぽっとぽっと、目、鼻、口、と穴をあけただけのような、表情のない顔。

 でも、俺にはいつもわかった。

 どんなときに母ちゃんが悲しいのか、どんなときに楽しいのか、顔のわずかな動きだけでわかった。

 あのオプニカの夜。

 母ちゃんはずっと悲しそうだった。

 俺の好物のハンバーグをこねまわりながら、ぼんやりと、オプニカの始まる川のチャシのほうを眺めていた。

 ソース。てりやきにしてね。

 俺は母ちゃんの気を引きたくて、引き止めたくて、もどらせたくて、何度も何度もそう頼んだ。

 頼んだのに、夕食に出てきたのはトマトのソースだったんだ。

 あのときの、酸っぱいソースの味は忘れない。

 あの日からすこしづつ母ちゃんは変になっていった。

 オプニカに参加していた中学生の一人が片腕を失くした、あの夜から。

 5年たった今でも、昨日のことのようによく覚えている。