俺は手を、ゆっくりと小森の目の前から撤退させながら、ゆっくりと付け加えた。

そのとき、二年生のグループが、会長、お先に、と俺たちの横を通りすぎた。

おう、気をつけて帰ってな。 俺は、威勢良く応える。

イヨマン・学祭、すっごい楽しみしてます! グループの一人が振り返りながら白い手袋の右手を振った。

小森先輩もさようなら! べつの一人は緑のマフラーを大きく振り上げた。

「さようなら」

小森が、びっくりするくらい大きな声をあげた。

悲鳴みたいな、さようなら。

二年生たちは一瞬驚いたように立ち止まったが、小森が両手をぶんぶんふりまわしたので、大喜びで、両手を振って、さようなら、と応えて去った。

「さようなら、メコンノマコイ、頑張ってね」

彼女たちが見えなくなったところで、小森はそういって小走りで去っていった。

声はまだ悲鳴のままだった。

俺は、跳ねるウサギみたいにどんどん小さくなっていく小森の背中をみていて、舞とちゃんと話をしたいと強烈に思えた。

イヨマンテの前の日に、ちゃんと話をしようと、心に決められた。

吹いてきたユーカラの風の中で、小森、サンキュウ、といってみる。

ウサギの小森がキャッチできるかは、いまひとつ確信がもてなかったけれど。