「メコンノマコイ、彫ってるんだって?」

うだうだやっていた小森をせかして学校を出て、校門のあたりまで歩いたところで、小森は意を決したようにいった。

俺は答えないで、ただ小森の小動物そっくりの小さな丸い目をじっとみた。

小森はウサギ系なんだ。

「それって、白川さんに送るんだよね」

不思議なことに、小森の目はウサギの目になりつつあった。

どんどん赤くなってくる。

涙がすこしづつ溜まっていっているみたいに。

「白川さん、だよね」

わたしじゃなくて。

そう、きゅっと閉じたおちょぼ口の内側でつづいているような気がした。

「そう。白川さんのために彫ってる」

俺は手袋を脱いで、傷だらけの両手を小森の前に突き出した。

もうすぐ初雪もふりそうな季節だから、手袋をはいているのは不自然じゃないけれど、この頃の俺は教室でも薄手のやつをはいたままでいることが多くなっていた。

ほとんど絆創膏で埋まってしまっている手を出しているのは、やっぱり恥ずかしかったから。

舞や他の連中に、どうして? ってきかれてると、このごろ妙に潔癖症で、なんて答えてきていた。

メコンノマコイを彫ってるのを知っている、佐藤や木崎や山中や安部は、なにもいわずにいてくれたけれど。

「イヨマンテの夜に渡そうと思って頑張ってるんだ」