翌朝からのイヨマンテまで、1ケ月の日々を、俺はよく記憶していない。

ごくごく普通と変わりなかった、といえばそれだけだ。

朝起きて、朝飯をつくり、体操している親父にくわせて学校へいく。

授業を受けて、休み時間には生徒会室で主に学祭の打ち合わせをして、放課後も必要があれば会議をし、下校の鐘と同時に学校を出る。

どこにも寄り道をせずに家に戻り、時間になったら夕飯をつくり、診療の終わった親父にくわせる。

一、二度親父に誘われて木崎んとこに蕎麦を食いにいったけれど、それだけだった。

午前零時にベッドにもぐりこむまで、それら以外の時間の、ほとんどすべてを、俺はメコンノマコイを彫ることに費やした。

夜の作業のために、マウンテンバイクを買ったために残り少なくなっていた貯金を全部使って、質のいい蜜蝋を沢山買い込んだ。

親父のお下がりの彫刻刀では彫りきれない部分が出てきたため、西の大きな都市の店から、極細の刃を持つ彫刻刀をとりよせた。

「なんだか、おまえ、青春してるなあ」

寝ても覚めても居間の片隅の削り台に向かっている俺をみて、親父はしみじみ感心したようにいうのだった。

舞とも、ほとんど会わなかった。

佐藤と木崎を送っていったその足で、俺は役場横の舞の家へ行った。

そして、しばらく学祭とイヨマンテの準備で忙しいから、いっしょに帰ることができない、と伝えた。

舞は不本意そうな顔を一瞬したけれど、自分も勉強があるから、ちょうどいいかも、といってくれた。

来年、東京の高校に行くつもりだから、やっぱり勉強頑張らないとね、と明るく笑ってくれた。

俺は、また、学祭とイヨマンテが終わったら、とだけいって帰ってきた。

それ以来、教室で挨拶に毛の生えた程度の会話を交わす以外には、喋っていない。