「わかってる。今日はどうもありがとう」

俺はいまひとつ良く見えなかったけれど、佐藤と木崎にむかって、深く礼をした。

二人も礼を丁寧に返してくれたのも、なんとうなくだけれど、わかった。

それでいい。

「相談とかはできないけど、いっつも応援してるからさ、とにかくメコンノマコイ、死ぬ気で作れよ」

「うん。あれはいい図柄だよ」

佐藤と木崎はそういうなり、ふっと闇に沈んだ。

ああ、化身して正婆のところにいったんだな、とわかった。

そんな力はまだまだない俺たちでも、正婆の補助があれば化身も可能だ。

たぶん、正婆は今夜、二人が俺のところに来たことも、色々話したこともとっくに知っているんだろう。

それでいいんだ。

俺はゆっくりと体を反転さえて、親父が蕎麦を食ってる家に足をむける。

できることは、メコンノマコイを作ることだ。

あの不可能としか思えない細かい図柄を彫り上げることだ。

できるだろうか?

できなくてもやるしかない。

気がつかないうちに拳を握っている自分に気がつく。

やるしかない、なんて気持ち、いままで持ったこと無いな、俺。

そうだね。

誰かが遠くで相槌をうった。

俺は、だよね、ともう一度繰り返した。