眼鏡の中の、長いまつげに縁取られた人形の目みたいな木崎の瞳が、涙で潤んでいるのに気がついて、俺は驚きながら、何度も何度もうなづいた、

「お、来てたのか。珍しいな」

親父の声にみんな、はっと我に返る。

時計を見る。

もう八時だ。

「おじさん、お蕎麦、冷蔵庫にはいってます。親父がよろしくって」

「なんだ? 差し入れか? 気がきくな木崎も」

親父はにこにこしながら冷蔵庫を覗きにいった。

「じゃ、俺たち、これで」

すかさず、木崎と佐藤は玄関に出る。

「なんだ?もう帰るのか? ビールあけるから飲んでけよ。明日は学校休みだろう?」

「あ、ちょっと用事あるんで、またあ、すいません」

居間で蕎麦を食べ始めたらしい親父に、佐藤が大声で応えた。

俺は、送ってくるわ、と二人と一緒に外に出た。

月も星もない、まっくらな闇だけの夜。

懐中電灯要る? ときくと、目つぶってだって帰れるぜ、と佐藤が笑う。

「舞ちゃんの件はさ、これで終わりってことで、いいかな」

そろそろ俺、家に戻るわ、といおうかと思っていたとき、ふいに木崎が言った。

「やっぱ、正婆に近いし。もう、ちょっとやばいからさ」

そうだ。だいたいこうやって、イヨマンテまでは正婆の身辺を守らなくてはならない家系の二人が、わざわざ俺のとこにやってきて、オプニカがどうの正婆の力がどうのなんて、やっていいわけがないんだ。