「こんなの貰ったら、白川も狂喜乱舞だな」

佐藤は何気なくいった後で、、あっ、という顔になった。

「べつにいいよ」

俺は力なく笑う。

ほんとうに舞が送られるのなら、最悪の場合、それは死を意味することになる。

もちろん、木崎の従兄弟のように記憶を消されるというのも考えられるし、その上で追放というのもある。

そのとき、俺は、あれっ、とひっかかった。

もしかして、母さんって、イヨマンテで送られてたのか?

いや、あのときはちゃんと送るための小熊がいた。

イヨマンテのために一年、‘ここらへん’の家が代わる代わる、大切に育てたヒグマの子供が確かにいた。

「思うんだけどさ」

木崎がふいに真面目くさった声をだした。

俺は思考をとめて、耳を澄ます。

木崎の声の調子がなんとうなくユーカラの風の調子に似ていたからだ。

「メコンノマコイ。たぶん要になるよ」

「なんの?」

佐藤がきく。

「白川さんがイヨマンテで無事でいられるかどうかの、重要なポイントになる。だから」

木崎は俺の手をぎゅっと握ってつづけた。

「すっごい綺麗なの、正婆が腰ぬかすぐらい綺麗なの作ってよ、会長」

「う、うん。わかった」