俺と木崎は顔をみあわせて、うーん、と唸る。

「よし、それはそういうことで置いておこう。じゃ、その、娘さんの片腕がなくなったオプニカのときだけど、他にも人はいたんだよな、いまみたいにさ。なら、目撃者がいるわけで、たった5年前のことなんだから、話、きけるんじゃないのかな」

「聞けない」

俺の提案を木崎が速攻で却下する。

「なんで?」

「とっくに聞いてみたからだよ」

「すごいじゃん」

すこしづつ顔色がもどってきている佐藤が誉める。

俺は佐藤のために暖かいお茶をいれようとテーブル横のポットに手をかけて、で、どうだったのさ、と木崎に話を促した。

「あ、俺にもね。うん。聞いたよ。じつは従兄弟がそのときの生徒会長だったんだよね。それはなにかで聞いて知ってたから、佐藤が耳切られた、って話聞いてからすぐに聞きにいったんだ」

お茶缶の中には、まだ、前に正婆が持たせてくれた、らうらうの花がちょっとだけ残っていた。

俺はそれを急須にいれて、残っていたポットのお湯を全部注ぐ。そうしながら木崎の次の言葉を待つ。

「でも駄目だったんだなこれが。従兄弟はたしかにそのオプニカに参加していたし、その娘さんが片腕を失くしたのも知っていた。彼女がその後よくならなくっていなくなってしまったことも悲しんでいた。なのに、忘れてるんだ、片腕のなくなった場面をそっくりと。川のチャシのところから話してもらったんだけど、出てこないんだよ、片腕のなくした場面は。山のチャシですべてを終わったとき、彼女の片腕はなくなっていました、ちゃんちゃん、みたいな感じで」

「意識して抜かしてるわけじゃないんだ?」

「そういうこと」

俺は急須をふって、ドーナツ屋の景品の湯のみにお茶をすこしづつ注いでうなづく。

「それってつまり」

「そう。消されてるんだ。そこの記憶を。完全に」