答えなど決して返してもらえないとわかっていても、聞きたかった。

正婆のいうことが、もうずっと長い間、‘ここらへん’のルールになっているのだとわかっていても尋ねたかった。

木崎に聞いてもらおうか?

それとも佐藤をつけていって正婆の籠もっているところをさがして聞いてみようか?

どれもできそうで、絶対にできない。

ならどうする?

「メコンノマコイを彫るだけだ」

俺は舞の家にくるりと背を向けると、ダッシュで家にむかった。

イヨマンテまで約1ヶ月だ。

はたしてそれだけの時間で、満足できるメコンマコイを彫り上げられるかはわからないけれど、もうそれしか、できることがないと俺は思っていた。

なら、一刻も早く家に帰って、彫ることに集中することだけが、救いの道につながっている。

もしかしたら、俺のためだけの救いかもしれないけれど、でも、つながっているはずだ。

走っているうちに雲が低く下りてきた。

オプニカのときのレベルくらいまできている。

こんなことはすごく珍しい。

目の前でふわふわとただよう尻尾を俺は右手でつかんだ。

遠くで雷が鳴って答える。

左手もそえてひっぱると、まるで俺のかわりにそうしてくれるように、大粒の水滴がぼとんぼとんと、勢いよく落ちてきてくれた。