行くのはやめようと思ったのだけれど、足が勝手に舞の家のほうにむいていた。

困ったな、と思う。

さっき役場の前で、遅くなるかもしれないし、といって別れたばかりだ。

結局、舞は清書の細かい直しにもつきあってくれた。

実行書をいれる封筒も、舞が向かいの文房具屋まで走っていってかってきてくれた。

このごろ、副会長も書記もみかけないね、生徒会室で、会長、嫌われてんじゃないの? と楽しそうに笑いながら、手伝ってくれた。

木崎が、ブラインドタッチすごいっていってたぜ、といったら、しきりに照れてもいた。

参ったな、と思う。

母さんがいなくなったときも、じいちゃんが死んだときも、それなりに困ったな、参ったな、とは思ってきたはずだけれど、たぶん、そのこと、俺はまだ子供だった。

守ってもらって当然の存在だった。

いまは、もうすぐ16だ。

守っていくものができていい歳だ。おそらく。

舞の部屋の窓には明かりがついていなかった。

きっと居間にいるんだろう。居間で本を読んでいるに違いない。

今日、図書館で借りてきたユーカラ日本語版だ。

ピリカの章を目次にみつけて、俺は、これいいよ、と指さした。

舞は、へえ、と嬉しそうにいって、家帰ってすぐに読む、とうなづいていた。

正婆に言いたかった。

婆、舞はもう化粧もしないし、ブランドの服も着ない、ユーカラまで読む、なのに、どうして送るのか?