「俺、メコンノマコイ、彫ってるんだ」

風のまんなかにたって、俺は佐藤をふりかえる。

実験室からのろのろと出てきた佐藤は、知ってるよ、とうなずく。

「親父がいい木、見つけてくれてさ。なんだと思う? 柳だよ」

「すげえな、このごろいい柳はめっきりすくなくなったって、安部がいってたからな」

佐藤はふらふらと近くの椅子に腰をおろした。

とたん、廊下のほうからざわざわと人の気配がよせてきた。

昼休みが終わったんだ。

楽しい昼休みが終わって午後の授業が始まるんだ。

「学祭の実行書、役場と正婆に渡さなくちゃならないんだ」

入ってきはじめた、一年生たちの間を、抜けながら、俺はなんとか椅子から立ち上がった佐藤にむかっていう。

あ、佐藤先輩だ、かっこいい!

いくつかあがる黄色い声はまったく無視した佐藤が、ああ、とうなずく。

「木崎が届けてくれるよ。正婆のほうなら」

「うん」

「やだあ。こんな寒いのに、窓開けたの、だれえ!」

女子の何人かがきゃあきゃあいいながら窓を閉めてあるきだす。

きゃあ、ばたん、きゃあ、ばたん、と消えていく風。

「おめえら、うるせえんだよ!」

佐藤が、ぶち切れたように、叫んだ。