「今回のイヨマンテで送られるのは」

「白川舞だ」

声があった。

いや、俺があわせたんだ、たぶん。

佐藤はがっくりと肩を落として、また、ため息をついた。

さっきよりも、もっと大きなため息で、今度は佐藤の体が半分近くにも小さくなってしまったような気がした。

そのまま小さな熊に化身して、舞のかわりに俺がいく、と吠えてしまいそうだ。

俺はつと立ち上がった。

まず実験室と理科室の間のガラス戸をあけた。

それから理科室にある全部の窓を開けた。

ユーカラの風がふわりと入ってくる。

くるくると回りながら、ひゅるひゅるとうたっている。

ピリカ ピリカ

悲しい恋の歌

追って追いかけて

最後は砦から飛んでおりた

底ない沼に沈んでいった

ピリカ ピリカ

わたしの心臓はここ

ピリカ ピリカ

いっしょにいける沼はどこ?