ちなみにバーナーをつけたり消したりするのは、佐藤がなにかを迷っているときにする癖だ。

木崎が目がねをやたら指で押し上げるのと同じように。

俺は黙って待つだけだ。

「あのさ、淳。俺、やっぱ、いっとくわ」

バーナーを12回つけて消してから、佐藤はオプニカで傷ついた右の耳をさすりながらいった。

もうとっくに絆創膏のとれた右の耳。

「正婆はいうなっていったんだけど。やっぱいう。俺たちはダチだからな」

俺は、うん、ととりあえずうなづいた。

もう、内容なんてわかってたけど、いってくれよ、といった。

「今度のイヨマンテで、送られるのは小熊じゃない」

佐藤は耳を触る手を執拗に上下させている。

そんなに激しく振り回したら耳、また、切れるぞ、というくらい動かしている。

「生きてる小熊でも、前に何回かあった張子でつくった似非小熊でもないんだな」

「そうだ、違う」

佐藤はそこで黙った。

耳はまだ振り回されている。

もう、いいよ。俺は思った。

俺がいうからいいよ。

佐藤はたぶん、ヒグマを継ぐものとしては、優しすぎる。

俺が口をひらきかえると、佐藤は耳をさわっていた手をすっと伸ばして俺の口を封じた。

そして、涙でいっぱいになった目をしっかりと俺にむけていった。