「遅刻」

教室に飛び込むなり、俺はザビエル安田に睨まれた。

時計をみると、確かに遅刻だ。それも30分以上の。

「淳、今朝、学祭の実行書、役場に提出じゃなかったのか?」

安田は黒板に書いていた数式のいくつかを手の甲で消しながらいう。

俺は答えずにまず自分の席につく。

舞が斜め前の席から、心配そうな顔で俺をみている。

俺は鞄の中のものを机にしまうふりをしながら、あわててメコンノマコイを包んだハンカチを確認する。

あった。

これで、たぶん、とりあえずは大丈夫だ。

「電話かかってきたぞ、役場の林さんから、来てないって」

「すいません、寝坊したもんで」

俺は教室中の連中の顔を見回しながら答える。

みんな、退屈な数学が中断されて嬉しいのか、それとも俺が注意されているのが面白いのか、にたにたした顔で俺と安田をみくらべている。

佐藤の席には誰もいない。

佐藤はやっぱりいない。

「佐藤、休み?」

俺はにたついているみんなに聞いた。

「ショックなんじゃん。試合負けて」

「寝込んでるとか」