でも、そんなことえは簡単には起こらない。

ベッドの上で目を覚ました俺にはちゃんと両腕があった。

念たのために起き上がって、部屋の隅にある全身鏡ですみずみまで確かめてみたけれど、なくしたものはないみたいだった。

部屋の中も普段とまったく変わりがなかったし、朝のその時間にはだいたい聞こえてくる、親父の体操をする掛け声もいっしょだった。

ただ、違ったのは、俺が悲しかったことだ。

悲しくて悲しくて、涙がぼろぼろと流れ続けていたことだけだった。

たぶん、眠りながら一番中泣いていたんだろう。

目のまわりはひどく腫れあがっていて、誰がみてもそれとわかる状態だった。

だから、すぐに出かけた。

いつか、ふざけて勝ったサングラスをかけて。

制服は着たけれど、学校にいくつもりはなかった。

鞄の中にはちょっと迷ったすえに、作りかけのメコンノマコイを木綿のハンカチに丁寧に包んで入れた。

必要だと思ったからだ。

自分を励ます力になってくれるとも思った。

俺がこれから出かけていくところで。

つまり、正婆の家で。