「しょうがないよ。アウエィだったし。それにオプニカから色々あって佐藤もお疲れモードだったし」

「オプニカだよね」

木崎はコーラをまた一本あけながら、オプニカ、オプニカ、としきりに口の中でつぶやいている。

木崎は何か迷ったりするときに、ぶつぶつぶつぶついう癖があるんだ。

「何、迷ってんの?」

俺はほんとうに、いつもの調子できいた。

つまり、いつも、木崎が、HBの鉛筆を使うかHの鉛筆を使うかで迷ったり、ミルクチョコを食べるかダークチョコを食べるかで迷ったりするときに声をかけるのと同じ調子だったんだ。

「あのさ」

木崎はぐっと声を潜めた。

俺は、え? と驚く。

だって、いつもなら、へらへら笑いながら、いやあ、迷っててえ、なんていうんだから。

「昨日、正婆が来てさ、変なこといってたんだ」

正婆ときいて俺はちょっとびびる。

‘ここらへん’の連中なら誰だってびびるだろうけど。

「何ていってた?」

「それがさ」

木崎はテレビの野球放送をちらっと見てから、一気にいった。

「佐藤の耳の傷のこと。オプニカでの傷のことなんだ」

「傷がなんだって?」