イワクラが終わり、メコンノマコイの木を親父と見つけたあの日以来、俺は家でも缶詰状態だ。

とにかく彫ってる。

飯と風呂と寝る以外は、テレビもみずに彫り続けている。

親父はみつけてきた木を二つのパーツに分けてくれた。

つまり、刃の台となる小さな部分と、その鞘になる大きな部分だ。

できあがれば全長、15センチ、幅4センチほどの小刀になる。

彫り込む文様は親父と二人で3日かかって決めた。

ほんとうは自分だけで決めたかったのだけれど、ユーカラの物語の知識が俺には圧倒的に足りなかった。

図書館や役場の図書室にいって本をしらべるより、親父に聞くほうが早かったんだ。

親父は張り切って何冊もの本や口語りにテープなんかを借りてきてくれた。

そして俺の希望にあいそうなのを、いくつかピックアップしてくれた。

俺の希望、つまり、正婆がはじめて舞を川べりでみたときに言った言葉、それは母さんがよく子守唄で歌ってくれた歌と同じ言葉だったのだけれど、その言葉に関連した文様だった。

銀のしづくふるふる 金のしづくふるふる。

ふくろう ふくろう ふらせておくれ

銀のしづく を こっちのうちに

金のしづく を あっちのうちに

こっちは 腹ぺこ

あっちは 病気だ

ふくろう ふくろう はこんでおくれ

銀のしづくふるふる 金のしづくふるふる