‘ここらへん’の雲は面白い。

いつまでも見ていられる。

どこの世界の雲もこんなふうに面白いのかと思っていたら、‘ここらへん’だけだと、母さんが教えてくれた。

それが本当だってわかったのは、母さんがいなくなった次の年に、修学旅行でずっと南の街に泊りがけでいったときだった。

風に吹かれて左右に動いてはいるけれど、上下の動きがあまりにも乏しいことに、俺たちはびっくりしたんだ。

左右上下によく動く、‘ここらへん’の雲。

「また、雲みてるんですか? 会長」

舞の声が後ろから響いてくる。

でも教室の外だ。

俺はいま生徒会室で一人、缶詰状態で学校祭の実行書の最後の仕上げをしているからだ。

試験は無事に終わった。

点数は無事じゃあなかったけれど、偏差値の高い高校に行く予定はまったくないので、問題はない。

親父のマッサージ院を継ぐには、とりあえず公立の普通科を出ていればOKだ。

舞が生徒会室、つまり理科準備室のガラス戸をたたく。

舞は試験前に髪を切った。

肩までのカールがかった髪は、耳したでそろえたボブっていうのになった。

もう、カラーリングはしないんだそうで、いまは少々まだらな色だ。

でも、すぐに、黒だけになる。

それはたぶん、舞のくっきりとした大きな黒い瞳に良く合うはずだ。