なにか、なにかつかもうと、とっさに手をのばしたら、今度は握れた笹がすっぽりと抜けた。

落ちる。

体がぐっと硬くなる。

耳のそばで風が鳴る。

凄い勢いだ。

吹き上がってくる。

これはユーカラの風だ。

こんな溜まりの場から?

「淳、しっかりしろ」

ふっと腕をつかまれた。

親父だ。

落ちたはずの体は親父につかまれた腕につながって、熊笹の上にある。

「化身しかけてたぞ」

親父は怒っているような笑っているような変な顔でいった。

「化身?」

俺は体を起こしながら、頭をふる。

「落ちかけてたよね、俺。あそこから崖でしょう?」

親父は答えずに、さっき俺が落ちかけたあたりを探るようにみている。

「あれは、溜まりだ」

「知ってる。正婆がいってた。邪が溜まりすぎて、溜まりがひろがってるって。だから清めなくちゃならないって」

親父はうなづいて、ここまで広がるなんて前代未聞だ、とつぶやく。