あっはっは、あっはは。

こだまのこだまが、まだ聞こえてきた。下からだ。あがってくる。

それで俺はようやく気がついた。

ここはもう、溜まり、の近くだと。

正婆がいっていた、邪、の吹き込む溜まり。

内の川と外の川、そして山の背の間にくわっと空いた気の薄い場所。

親父、気がついていないんだろうか?

俺は黙りこくったまま、動かなくなっている親父を振り返った。

いない。

「親父」

熊笹のを踏みしめ、とびあがって、あたりを見回す。

「親父!」

親父、親父、親父。こだまが異様によく響く。

まさか、俺の質問にショックを受けて転がり落ちたとか。

じっさい、10歩もいかないうちに、蹴飛ばした石ころが転がり落ちていく音がきこえた。

「親父!!」

熊笹の根元に注意して、いったいどこからが崖なのか、確認しながらすこしづつ進む。

「親父!!!」

がっくりと右足が落ちた。

あわてて引き上げる。

笹の根元がもう無い。

一足分の穴がぽっかりと開いて、細かい砂がぽろぽろとすべり落ちていっている。