「ああ、ここらへんは駄目だな。襟巻きばかりだ。柳ならもっと奥だ。なあ、淳」

親父の声が、かなり前の、白樺が群生しているあたりから聞こえてくる。

親父はもう、柳で作るって決めてるみたいだ。

俺は軽くため息をついて、わっしわっしと熊笹を押し倒して進み始める。

もうずいぶん奥まではいってきている。

こんなとこまでくるなんて、たぶん、初めてだ。

普段、足を踏み入れる山なんて、集落寄りの、山の端くらだから。

オプニカのチャシだって、いちおう頂上ではあるけれど、下から15分ほどであがりきれるし、昨日イワクラを行ったところなんて、山というより、ちょっとあがったところにある空き地だ。

一番遠い正婆の家だって、いまみたに道のないところを入っていったりなんかしない、冬も除雪車が充分通れるくらいの道路はきている。

ほんとうに久しぶりに山の、それも背中の背中のほうまで来ているんだ。

美しいメコンノマコイを生み出せる、美しい木を探しに来ているんだ。

舞に贈る、メコンノマコイ。

「俺はおまえくらいの年に入ったときは、こんなにでかいミズキや柳がどっさりあったんだがな。イヨマンテのときにかなり切られたかなあ」

まだ若いミズキの木の幹を、軍手の手でぱんぱんたたきながら、親父は一人ごちている。

俺はやっと追いつけた安堵で、思わずしゃがみこむ。

「なんだ、もうばてたのか?」

「親父が変だよ。飛ばしすぎ」

「変かあ?」