親父はどんどんと先にいく。

広い作業服の背中にくっきりと染め抜かれた、ふくろうの文様が、ぎっしりと生い茂った熊笹の群生に見え隠れする。

「淳、ミズキがいいか? 柳のほうがいいんじゃないか? 襟巻きならそこそこのがあるぞ」

俺は、息があがっていてうまく答えられない。

振り仰ぐと、今日も、山はどんよりと曇った晴れだ。

水蒸気と雲で薄いカーテンをかけられた、お昼の太陽。

‘ここらへん’の山は、この市を含む盆地を囲む山々に比べれば、丘、みたいなものだ。

けれども、二つの川に囲まれた中州に、標高数百メートルといえども、いくつかの山が連なっているというのは、全国的にみても珍しいのそうだ。

小学校の社会の時間、ぼくとわたしの住む地域、の授業で習った。

親父のふくろうがとうとう見えなくなった。

俺は熊笹を折りまくり押さえまくっていた軍手の両手をとめて、また、空をみる。

鳥がゆっくりと横切っていく。

たぶん、とんび。

‘ここらへん’の大人たちは作業服に自分の家の文様を入れる習慣がある。

親父はふくろう。

佐藤んとこはヒグマ。

山中はウサギ、小森はシカだ。

田口んとこが、タカで、だからユーカラの風がわかる。

そういう系列なんだ。