「そうかな。たいしたことじゃないと思うけど」

俺は、手の中の小箱を、太陽に宝石を照らすような感じで俺に呈していた薬師を思いだした。
四角い顔にかわりはなかったけれど、異様なほどにニタついていたかもしれない。

「あ、でも、佐藤がイナウ置いてったんだけど、薬師のもの、の上にも一つ、のせてたかもしんないわ。なら、佐藤のおかげだな」

ちょっと照れて、そういってみた。

親父は、さらに大きく、うなずいてから、今日、行くか、といった。

「どこ?」

俺は、味噌汁の椀から目だけあげてきく。

「山さ。山の端から山の背から、山ん中から全部さ。木、さがすぞ、メコンノマコイの」

俺は瞬間、テレビ横のカレンダーに目をやる。

俺はいいけど、親父は診療予約が3つも入っている。

「予約は延ばしてもらった。大丈夫だ。行くぞ」

「うん!」

俺は自分でも恥ずかしくなるくらい元気良く答えていた。

たぶん、小学校四年のときに海に連れていってもらったとき以来の元気溌剌の返事だ。

母さんがいなくなってからは、しなかった高レベルの、うん! だ。

親父は、整った造作の顔をくしゃくしゃにして、笑った。

笑ったままで、しょっぱい味噌汁のおかわりを、俺にくれた。