「上出来だったんだってな、イワクラ」

翌朝、居間にいくと上機嫌の親父がいた。

珍しいことに朝飯まで作ってあった。

「あれ?今日の昼に帰ってくるんじゃなかったんだっけ?」

焦げた目玉焼きと、どろどろに煮詰められた若布の味噌汁をに箸をつけながら聞くと、ああ、早く終わったんで昨日の夜遅く帰ってきたんだ、という。

「ほら、薬師んとこに従兄弟、隣町で薬局やってる小さい男、知ってるだろう? あいつが車で来ててな。いつもは挨拶くらいしかしないのに、今回はずいぶん気いかけてくれて、乗ってきませんか、なんていうんだよ、家の前まで乗せてきてくれたさ」

「へえ。よかったじゃん」

思ったとおり、しょっぱい味噌汁に顔をしかめて、それでも俺は、久しぶりに父親が作ってくれた朝食に感謝いっぱいの息子、の顔をする。

「なんていうんだ、それが、おまえのおかげっていうか」

親父は自分の、俺の倍くらい焦げまくっている、ほとんど真っ黒な目玉焼きを茶碗のご飯の上にぽんとのせ、醤油を大量にかけて、ぐるぐるとかぎまぜている。

俺がいなかったら、こいつ、絶対に動脈硬化で死ぬな。俺は確信しつつ、なんで、俺? という。

「薬師の、送ってやったろ」

「ああ、だって送りたいものあるっているからさ、断るのも格好悪いじゃん。イワクラはそんなでかい式でもないしさ。どうせ俺たちガキの主催だし」

超塩分多量の目玉焼きご飯を、がーっと口に流し込んで、親父は、うんうん、とうなずく。

俺は親父が見ていない隙に、味噌汁にポットのお湯をつぎたす。

「それがかなり嬉しかったんだろうな。薬師んとこじゃ。隣町の従兄弟にいわずにいられないくらい」