でも、大きすぎる野望だった。

「半月近くもぶらぶらしてたらね」

よっこらしょっと立ち上がりながら、湯本さんは明るくいった。

「仕事とかどうでもよくなちゃった。毎日、山登って、川に下りて、車の音のほとんどないところで、木や花や草に囲まれて。美味しい水のんで、美味しい空気すってたら、これで充分じゃないかって思えてきた。お金とかそういうの、くだらないって思えてきて、だからあのネックレスも送っちゃえたんだな、ねえ」

俺は、はあ、という。

湯本さんは、淳くん、はあ、ばっかり、と笑う。

童貞早く捨てなさいね、好きな子いるでしょう、と頭をこづく。

それだけだった。

それだけをくりかえしながら、外の橋を渡り、内の橋を渡り、湯本さんは役場横の、たった5部屋しかない、‘ここらへん’唯一の民宿に帰っていった。

ここご飯全然ひどいの、舞ちゃんのお父さんがいなかったら、わたし死んでたわ、と手をふりながら。

振り返ると、舞の家の灯りがみえた。

イワクラで舞が送った、沢山の服と鞄を思い出した。

そういえばもともとは、舞の熊を送るために企画したイワクラだった。

正婆は姿をみせなかったけれど、うまくいったことはきっとわかってくれているだろう。

じゃ、お元気で、と湯本さんを振り返ると、もう湯本さんはいなかった。

早っ、と吐き出した俺は、、でもすこし寂しかった、たぶん。