「知ってますか?」

俺は、立ち上がる気配のない湯元さんに語りかける。

「外の橋の、隣町側の袂のあたりって、けっこう人身御供とか埋まってるんっすよ」

湯本さんが嫌そうな顔をした。

ちっちゃい目をわずかによせたんだ。

「志願がほとんどなんだけど、とにかくね、敵から‘ここらへん’を守るために、力のある人が亡くなると埋めたんです。ときには、亡くなる前とかでも。むっかしからだから、もうかなりの数が埋まってるはずなんですよね」

「いまでも埋めてるの?」

「さあ、俺はきいたことないです。こっそり入っちゃう人もいるし」

「だから、トラックの運転手が突然らりって突っ込んできたりするのね」

湯本さんは、煙を吐き出しながら、ははは、と笑った。

「片腕を失くした娘さん、美津子さんっていうんだけど、自分で切ったらしいのよ。自分で切って捨てたの。どうしてそんなことしたの?って聞いたら、怖かったから、っていってた。あまりに綺麗な世界にうまれて、育って、責任のある儀式にも出て、なのに自分が汚くて悲しくてそれで一番汚い腕を捨てたんだっていってたわ。わたし、よく意味がわからなくて、でも、彼女がすごく綺麗だっていったところをみたくって、ずっと探してたの。彼女、記憶が曖昧で、地名とか全然覚えてなかったから何年もかかった。そしたらこの間、雑誌で淳くんのお父さんのマッサージ院の記事を読んで、やっと見つけられたの。美津子さん、わたしにだけ色々話してくれたのは、わたしが自分の母親の友人にそっくりの顔だからっていってた。お父さんに初めてお会いしたとき、わたしを見てすっごく驚いてらして、それでピンときて、遠縁だっていっちゃった」

湯本さんは、また、ははは、と煙を吐き出した。

俺は、ただ待っていた。

湯本さんの口から、続きがでてくることを。

じつは小竹さん経由で母さんにあったとか、せめて、いまどこそこにいるらしい、とかが、零れ落ちてくるのをじっと待った。